BookSpider:図書情報の情報空間と物理空間における検索の統合

PDF
加藤 範彦
名古屋大学 工学部 電気電子・情報工学科
長尾 確
名古屋大学 情報メディア教育センター

1 はじめに

図書検索では、蔵書データベースをキーワード等で検索するのが一般的で、単語による検索だけでなく、自然言語による検索が可能な場合もある。その検索結果には、その本が今、部屋にあるかどうかや、著者や目次情報などの本の説明、場合によっては部屋のどこにあるかの情報も含まれるかもしれない。しかし、その情報だけでは、実際に本がどの棚のどの位置にあるか、ということまでは分かりにくいと思われる。また、あるユーザが本をすぐに返却するつもりで、一時的に持ち出しているような場合、他のユーザが図書検索の結果から建物内に本があることが分かっても、実際には本は持ち出されているため、本を利用することができない。しかも、その時点で本が持ち出されていることを知ることができない。本研究では、本棚のどこに目的図書があるかを明確にユーザに伝えたり、持ち出し状況の自動検出のように、本の検索結果情報を表示するだけでなく、人の行動も考慮したシステムを考案し、試作・実験を行った。

2 BookSpider

上述の機能の実装として、BookSpiderというシステムを作成した。このシステムでは、全ての本にRF-ID技術(Radio Frequency Identification)を用いた電磁誘導式タグ(以下、RFタグと呼ぶ)を取り付けてあり、RFタグリーダによりRFタグをスキャンしていくことで、現在どの本が棚のどの場所にあるかを知ることができる。これによりユーザは、目的図書が本棚にあれば、それを自分で探すことなく見つけることができる。また、本棚はカメラによってモニタされており、本棚の図書が持ち出されたかどうかを監視し、本が持ち出された場合は、自動的に本棚のスキャンを行い、常に最新の本棚情報を保持するようになっている。

また、このシステムでは、ユーザは全ての操作をWeb上で行うことができる。これは、ユーザの利用形態として、PDAや携帯電話など、携帯端末からの利用を前提としていることと、システムの利用のために特別にアプリケーションをインストールする必要が無ければ、より多くの人が利用可能になると考えたからである。

2.1 Spider: RFタグ読み取りロボット

RFタグ読み取りを行うロボット(以下、Spiderと呼ぶ。図参照)はLEGO Mindstormsというキットを用いて製作した。これは、通常のLEGOブロックの部品の他に、RCXと呼ばれるマイクロコンピュータ搭載のコントローラーやモーター、ギア、タッチセンサー、ライトセンサーが付属したもので、プログラムによって制御が可能となっている。また、このキットには標準でソフトウェア開発環境が整っているが、複雑な処理が行えないため、様々な開発者によって提供されているMindstorms用のJavaAPIを利用してプログラムを作成した。

Spiderには、本棚にある本をスキャンする機能と、ユーザから本を探す要求が来た際、目的の本のある場所まで移動し、ユーザにその場所を伝える機能を持つ。

2.2 Spiderの動作

モーターでタイヤを回し金属パイプを横方向に移動。また、光センサでパイプに張ってあるカラーマークを感知することで両端を認識するようになっている。縦方向は、テグスの巻取りになっていて、回転角度センサから回転数を取得し、高さを計算している。

テグスの先端にはタグリーダが取り付けられており、これがRFタグに記録された本のID(ISBN)を読み、本の場所を知ることができるようになっている。

Spider

図1: Spider

2.3 図書データの登録

図書検索システムでは、著者名、出版社名、目次情報など、図書データを前もってデータベースに登録しておくことで、Web上で検索できるようになっている。

図書の登録は専用のGUIを用いて行い、XindiceにXMLデータとして保存される。また、図書の登録と同時に、本のISBNをRFタグに書き込み、そのRFタグを本の背表紙に貼る。これで、本棚に本を置いたときに、スキャンできるようになる。

2.4 図書検索、図書への到達

図書検索の画面では、タイトルや著者名などをキーとして検索を行う。ここでの検索結果の表示では、データベースに登録された図書情報に加えて、その本が本棚にあるかどうかを知るための「本を探す」ボタンが表示される(図参照)。これをクリックすると、その本が現在の本棚にあれば自動的にSpiderが動き、目的図書の前で停止する。そのままではSpiderが邪魔になって本が取り出せないので、Spiderについているボタンをおすことで、Spiderが初期位置に戻る。これで、ユーザは目的図書を手に入れることができる。

Web検索の結果表示

図2: Web検索の結果表示

2.5 本棚状況の監視と利用

本棚から本が持ち出されたり、逆に本棚に戻された場合、当然本棚にある本の状態は変わってしまう。そのままでは、Web検索結果に正しく現在の本棚の状況を反映させることができない。

この問題の解決方法として、本棚の状況ををカメラでモニタすることを考えた、本棚の手前数cmの面をカメラでモニタし、その映像に何か変化があれば、それを本の持ち出し(本を戻す)動作が起きたと認識し、自動で本棚の状況を再スキャンするようになっている。

3 おわりに

この研究の目的の一つは、これまでの図書検索に、物理的側面、つまり人の行動を考慮した検索を可能にすることである。現在は、検索から、本を取得するまでの機能を持ったシステムだが、今後は、本の貸し出し・返却についてもBookSpiderで行えるようにしていく予定である。また、本の持ち出しを、ユーザ情報とリンクすることができれば、そのユーザの興味・嗜好などを推論することができる。これにより、ユーザの興味のありそうな本が新しく入荷した際には、それをユーザに知らせる、ということも可能ではないかと考えている。

また、現在のシステムでは一つの本棚しか扱ってないが、今後は図書館などの建物全体を想定した、本棚への誘導についても考慮する予定である。