カジュアルミーティングの構造化に基づく発想支援

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伊藤 周
名古屋大学 情報科学研究科
友部 博教
名古屋大学 情報科学研究科
大平 茂輝
名古屋大学 エコトピア科学研究所
長尾 確
名古屋大学 情報メディア教育センター

1 はじめに

会議にはブレインストーミングのように比較的漠然とした問題をより具体的なものにするものがある。 本論文ではこれをカジュアルミーティングと呼ぶ。 この会議では対象とする問題が漠然としたものであるため、参加者から意見を集めることで 問題をより具体的なものとする発想段階の会議となる。 この会議を支援することで発想が促進されるだけでなく、より深い議論を行うための準備が容易になることが期待される。

そこで本論文ではカジュアルミーティングを対象にした発想支援システムを提案する。 本システムではホワイトボードに描かれた図と発言内容のテキストを関係付けてトピックと呼ばれるまとまりを作り、参加者に提示することで発想支援を行う。

2 発想支援システムに対する要求

発想段階の会議を支援するシステムに求められるものは次のものが考えられる。

  • 図を利用することができる

  • 会議の過程を確認することができる

  • 過去の会議記録を利用することができる

図の利用

発想法として代表的なものにはKJ法やMindMap\footnote[4]{http://www.mindmap.ne.jp/}など図を用いるものがあり、 カジュアルミーティングでも図や文章をその場で描きながら会話できることが望ましい。 図を用いた発想法では空間的な配置を用いて発想を行うように、 図を関連させて話をすることで参加者の発想を促すことができるだろう。 そのためには次に述べるように会議過程を図と関連させること、その記録を閲覧することで新たな発想へとつなげることができるべきだと考えられる。

会議過程の提示

発言の履歴を図と関連させて表示させることで、時間が経つにつれて過去に発言した内容を忘れてしまうのを防ぐ事ができる。 発想段階の会議ではIBISやDiscussion Miningのような論理的な議論展開ではなく、発言からどのような連想がなされたのかを記録することの方が重要であると考えられる。 そこで発言内容を表すキーワードを記録し、参加者が重要だと判断した発言についてはその場で詳細を記録し共有できるようにすることで会議内容を把握しやすくする。 そして発言単位で論理的な構造化を行うのではなく、発言の集合に対して関係付けを行う。 本論文ではこの発言の集合をトピックと呼ぶ。トピックは会議記録を分割する際の単位となる。

会議記録の利用

発想段階では既存のアイデアを基に連想を行うことがある。 そこでカジュアルミーティングの記録を閲覧することで発想の種として利用し発想が促進されると考えられる。 このとき提示するものは今の会話と論理的な関係、たとえば論拠となるなどの繋がりのあるものより、 むしろ何か共通する性質を持った別のものを用いたほうが良いだろう。 また対象となる記録は参加者が過去に行った会議に限らず、より多くの人で共有したものを用いるべきだろう。 図とキーワードだけではその会議で何を話していたのかを理解することは難しいので、 カメラとマイクを用いて映像・音声情報を記録したものを閲覧できるようにする。 テキストを読む以上の情報を与えることで発想を刺激し、より多くの意見を得ることができるのではないかと考える。

3 会議記録の構造化と発想支援

前節で述べた要求を満たすシステムを図に示した。本システムではアイデアを提示する参加者の他に、参加者の発言を記録する書記が必要である。 本システムは図を描くためのホワイトボードと会議過程を提示するためのディスプレイ、書記および参加者がテキストの入力および修正を行う端末 、映像・音声情報を記録するカメラとマイク、そしてそれらに基づき情報の記録を行うサーバによって構成される。 ディスプレイと端末には同じ情報が表示されるが、端末では参加者がテキスト記録の修正を行うことができる。 また書記用の端末には専用のテキスト入力ツールが表示される。

システム構成図

図1: システム構成図

ホワイトボードの利用

市販されているホワイトボード記録用デバイス(mimio\footnote{http://www.kokuyomimio.com/}を用いて図を用いた会議を記録する。 図は線1本ごとに時間情報とともに記録される。 %参加者がホワイトボードに描いた またホワイトボードは図の描画のためだけでなく、操作用のペンを用いて記録システムを操作するためにも用いる。 ホワイトボード上の一部領域にはボタンなどの機能が割り当てられており、その領域をペンでクリックしたりドラッグすることで トピックの作成や図の選択、カメラの操作などを行う。

図と関連付けたテキストの表示

参加者は登録された複数のトピックの中から一つのトピックを選択し発言を行う。 トピックにはトピック名とホワイトボードに描かれた線の情報と、書記によるキーワードと時間情報の記録、そしてまとめのテキストが関係付けられる。 ディスプレイにはこれらの情報が図のようにリスト状に表示される。 画面左側のトピックリストにまだ会話がなされていないもの、会話されてテキスト・図は関連付けられているがまとめが記入されていないもの、まとめが記入されたものに分けトピック名が表示される。 このうちの一つのトピックを選択することで、関連付けられた図とキーワードが画面中央のホワイトボード領域に表示され、 会議の過程を確認することができる。 書記がキーワードを入力すると、トピックのキーワードのリストにそのテキストが追加される。

会議中の会議記録の利用

書記によるキーワードの記録や参加者の描いた図の記録を用いて過去の会議記録を検索しディスプレイと端末に表示する。 過去の会議記録の中から現在話しているトピックに関連付けられたキーワードと同じキーワードを含むトピックを検索し、 そのトピックに関係付けられた図とキーワードの履歴、そのトピックに関連するアイデアを出し合っているときの映像を閲覧することができる。 図を用いた検索では手書き文字認識と同様のアルゴリズムで検索を行う。 会議記録の映像をすべて閲覧することは時間がかかるため、キーワードあるいは図を利用することで閲覧したい時間を指定することができる。 具体的には、書記に依頼してキーワードの履歴の中から選択するか、図の一部を選ぶことで指定する。 画面右側の記録閲覧領域にカメラで撮影した映像、図、キーワードの履歴が表示される。 また閲覧した図を基に発想を行う場合は、ホワイトボード領域にその図を取り込むことができる。 新たなトピックを作成して取り込むか、今の図に加えて取り込むことができる。 取り込んだ図はホワイトボードに描いた図とは別に扱われ、ホワイトボードによる操作で表示位置を変えることができる。

ディスプレイの画面

図2: ディスプレイの画面

4 まとめと今後の課題

本論文では発想段階の問題を扱う会議に着目し支援を行うシステムを提案した。 参加者の描いた図および書記の入力したテキストを記録し、 テキスト検索や手書き図検索により関連のある過去の会議記録を提示することで発想支援を行う。 過去の会議記録は図の一部を指定することでそのときに行われていた会議を閲覧することができる。

今後の課題としては、システムの実運用とその評価が挙げられる。